
ペネトレーションテスト(侵入テスト)は、企業のシステムが攻撃に耐えられるかを確認する重要なプロセスです。しかし、実施の仕方を誤ると「コストや工数が膨らむ」「現場の業務が停滞する」といった隠れたリスクが生じます。英国NCSCが指摘するように、ペンテストは「財務監査」に似た外部検証の一種であり、計画と実行の両面で慎重な設計が求められます。The Hacker News:Beware the Hidden Costs of Pen Testing
この記事のポイント
影響のあるシステム
- 企業の内部ネットワークおよびクラウド環境
- Webアプリケーション、社内システム、SaaSサービスなどペンテスト対象全般
- 情報システム部門・CSIRTが関与する全てのIT資産
推奨される対策
- テストスコープと目的を事前に明確化し、不要な範囲拡大(スコープクリープ)を防ぐ
- 業務影響を最小化するため、スケジュール調整を十分に行う
- 再テストや改善対応のコストを予算計画に含める
- 定期的なPTaaS(Pen Testing as a Service)の導入により、継続的な診断を効率化する
上記の対策は、参考文献・記事で発表されている事実に基づき日本の読者向けに整理したものです。
この記事に出てくる専門用語
- ペネトレーションテスト(Penetration Test):システムに対する模擬攻撃を通じ、脆弱性を発見・評価するテスト。
- PTaaS(Pen Testing as a Service):継続的かつ柔軟にペンテストを実施できる「サービス型」の診断方式。
- スコープクリープ:当初の計画範囲を超えてテスト内容が膨張し、コストや工数が増大する現象。
ペンテスト導入に潜む「見えないコスト」

ペンテストは「一律の方法」で実施できるものではありません。対象範囲や実施頻度、手法によって負担が大きく変わります。特に従来型の一括テストでは、社内の調整作業が発生し、担当者が本来業務に集中できなくなることがあります。また、事前準備としてシステム資産の棚卸しやアクセス権設定の整理も必要で、これらは見落とされがちな「管理コスト」として積み上がります。その結果、単なるテスト費用を超えるリソース消費につながるケースが多いと指摘されています。
スコープ設計の複雑さと「スコープクリープ」問題
テスト範囲(スコープ)の設定は、ペンテスト成功の鍵を握ります。何を「テスト対象」に含めるか、どこまでを除外するかは、組織ごとに異なります。たとえば、クラウド移行や新規アプリ導入のたびに環境が変化する企業では、テスト範囲を見直す必要があります。ここで懸念されるのが「スコープクリープ」です。これは、実施中に新たな範囲や課題が追加され、当初の計画を超えて、コストと工数が膨張する現象です。社内外の調整に時間を取られ、結果的にテストの質やスケジュールにも影響を及ぼすことがあるため、初期段階で明確な基準設定が求められます。
コスト最適化の鍵となるPTaaSの活用

近年注目されているのが「Pen Testing as a Service(PTaaS)」という新しい形態です。これは、必要な時期・範囲・頻度で柔軟にテストを実施できるクラウド型サービスで、従来のスポット型よりもコスト管理が容易です。たとえばOutpost24の「CyberFlex」では、PTaaSとEASM(外部攻撃面管理)を組み合わせ、アプリケーション層の脆弱性を継続的に監視・分析できます。このようなモデルを導入することで、組織は「必要なテストを、必要な時に、適正なコストで」実施できるようになり、全体的なセキュリティ成熟度の向上にもつながります。
国内組織が直ちに確認すべき点

日本企業にとってもペンテストは重要なセキュリティ評価手段ですが、その運用設計を誤るとROI(投資対効果)が低下します。特に外部委託の場合、テスト内容や契約条件を十分に確認しないまま依頼すると、後から追加費用が発生するおそれがあります。社内CSIRTやISMS担当者は、ペンテストの目的を「単なる脆弱性洗い出し」ではなく「持続的な改善サイクル」として捉え、定期的な再評価とフィードバック体制を構築することが望ましいでしょう。さらに、国内外の標準(例:OWASP、ISO/IEC 27001)に基づいたテスト設計を取り入れることで、費用対効果の最大化が期待できます。
参考文献・記事一覧
投稿者プロフィール

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