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イラン情勢で高まるサイバー攻撃リスク 軍事衝突と一体化する「新しいサイバー戦」とは

中東で軍事的な緊張が高まると、まず注目されるのはミサイルや空爆です。
ただ、実際の現場を見ていると、今はそれだけでは済みません。攻撃の前後で先に動くのは、通信、情報、アプリ、公開システムといった“デジタルの土台”です。

2026年2月28日、アメリカとイスラエルがイランに対して実施した軍事作戦は、その変化を象徴する出来事として受け止められています。
この一連の動きで印象的だったのは、サイバー攻撃が単なる補助ではなく、作戦の初動そのものに組み込まれていたとみられる点です。

企業の情シス担当者やセキュリティ責任者にとって、国家間の衝突は一見すると遠い話に見えるかもしれません。
ただ、こうした局面のあとに増えやすいのは、政府機関だけを狙った攻撃ではありません。重要インフラ、物流、金融、外部公開システム、関連企業、委託先などに波及する攻撃です。

現場感覚で言えば、こういうニュースは「地政学リスクの話」で終わらせず、自社の公開資産や外部接続を見直すきっかけとして捉えた方が実務的です。

イラン情勢で注目されたサイバー攻撃 何がこれまでと違うのか

今回の軍事衝突で特に重要なのは、サイバー攻撃が“戦闘の前座”でも“後処理”でもなく、最初から主要な構成要素として機能していた可能性が高いことです。

これまでサイバー攻撃は、諜報、偵察、情報窃取、あるいは限定的な妨害といった位置づけで語られることが多くありました。
しかし近年は、その役割が明らかに変わってきています。

今のサイバー作戦は、次のような目的で使われます。

  • 攻撃前に通信や情報環境を不安定化させる
  • 相手側の混乱を広げる
  • 社会心理に影響を与える
  • 指揮命令や連携を妨げる
  • 軍事行動と同時並行で効果を増幅させる

つまりサイバー空間は、もはや裏方ではありません。
実際の戦場を形づくるための前線領域になっています。

軍事衝突の前後に広がるサイバー戦の実態

現代の軍事作戦は、いきなり物理攻撃だけで始まるわけではありません。
その前後で行われるのが、通信・情報・世論・サービス基盤を揺さぶるためのデジタル準備です。

今回のイラン情勢でも、次のような事象が報告されています。

  • 政府系ウェブサイトの改ざん
  • 報道機関での反政府メッセージ表示
  • 行政サービス基盤への攻撃
  • 広く使われているモバイルアプリの侵害

中でも象徴的なのが、宗教的な利用文脈を持つ礼拝時間アプリ BadeSaba への侵害です。
単に使えなくするのではなく、アプリを通じて政治的メッセージが流されたとされている点が重要でした。

ここに、今のサイバー戦の特徴がよく出ています。

なぜモバイルアプリの侵害が危険なのか

企業のシステム運用でも同じですが、ユーザーが普段から信頼している仕組みが侵害されると、影響は想像以上に大きくなります。

モバイルアプリは、単なる便利ツールではありません。
通知、メッセージ表示、画面上の案内、更新機能を通じて、ユーザーに直接情報を届けられる“信頼済みチャネル”です。

特に情報統制が強い環境では、その価値はさらに高まります。
テレビやニュースサイトよりも、日常的に触れているアプリの方が、利用者にとって心理的な距離が近いからです。

このため、アプリの侵害は次のような意味を持ちます。

  • 広範囲の利用者に一斉に影響を与えられる
  • 正規の通知に見せかけて情報を届けられる
  • 利用者の混乱や不信感を広げやすい
  • 社会心理への影響が大きい

単なるサービス停止よりも厄介なのは、「壊す」より「信頼を乗っ取る」方が強い局面があることです。
これは国家レベルの情報戦だけでなく、企業を狙う標的型攻撃でも共通しています。

インターネット遮断は防御なのか、それとも弱体化なのか

同時期、イラン国内ではインターネット接続が大きく落ち込み、通常時の1〜4%程度まで低下したとする分析も出ています。

こうした大規模な通信制限は、一見すると「防御策」として理解しやすいものです。
実際、外部からの侵入や情報拡散、影響工作を抑える効果はあります。

ただし、サイバーの現場で考えると話はもう少し複雑です。

外部からの攻撃を抑える効果

接続性を落とせば、外部からの侵入経路を絞りやすくなります。
また、国外から流し込まれるメッセージや情報操作の広がりも抑制しやすくなります。

国家レベルでは、緊急時の通信遮断は昔から使われてきた対処の一つです。

自国側のサイバー部隊も動きにくくなる

一方で、サイバー作戦はネットワークがあってこそ成立します。
指揮命令、複数拠点の連携、攻撃基盤の運用、リアルタイムの状況共有など、すべて通信の上に成り立っています。

つまり、接続を大きく落とすと、相手の攻撃を止めるのと同時に、自国側のサイバー活動も鈍らせる可能性があります。

企業に置き換えて考えると分かりやすいかもしれません。
インシデント発生時に、外部接続を止める判断は重要です。
ただし、それによって監視、調査、復旧、関係者連携まで止まってしまえば、被害対応そのものが難しくなることがあります。

遮断は強い手ですが、万能ではありません。

イランの報復で警戒される「代理ハッカー」とハクティビスト

もう一つ重要なのが、国家のサイバー活動は国内組織だけで完結しないという点です。

イランは過去から、国家本体だけでなく、政治的に近い立場のハッカーグループ、ハクティビスト、協力者、外部の関係組織など、分散したエコシステムを活用してきたとみられています。

この構造の厄介なところは、国内の通信障害があっても、国外にいる協力者は活動できることです。
そのため、初期の報復は国家直属の高度な部隊というより、まずは外側にいるグループから始まる可能性があります。

想定されやすいのは、次のような攻撃です。

  • DDoS攻撃
  • ウェブサイト改ざん
  • ハック&リーク
  • データ窃取と暴露
  • SNSを使った情報拡散や偽情報拡散

こうした攻撃は、必ずしも高度ではありません。
ただし、高度でなくても十分に厄介です。

なぜなら、目的が“深く潜ること”ではなく、目立つこと、混乱させること、心理的圧力をかけることにあるからです。

イランのサイバー戦略は「非対称戦」で理解すると見えやすい

イランのサイバー活動を考えるとき、重要なのは「非対称戦」という見方です。

アメリカやイスラエルのような軍事大国に対して、同じ土俵で正面から対抗するのは難しい。
そのため、より低コストで、責任の所在を曖昧にしやすく、政治的・社会的な打撃を与えやすい手段としてサイバー攻撃が重視されてきました。

特に狙われやすいのは、停止や混乱の影響が大きい分野です。

分野狙われる理由
金融社会不安や経済的混乱を生みやすい
水道生活インフラとして政治的影響が大きい
エネルギー国家機能や産業活動に直結する
ICS・OT環境物理設備に波及する可能性がある
交通・物流供給網の混乱を引き起こしやすい

サイバー攻撃が好まれる理由も明確です。

  • 軍事行動より低コスト
  • 即時の全面衝突に発展しにくい
  • 攻撃主体を曖昧にしやすい
  • 技術的被害以上に心理的効果が大きい

この構図は、国家同士の衝突に限りません。
企業を狙う攻撃でも、攻撃者は「壊しやすい場所」ではなく、少ない手数で大きな影響が出る場所を好みます。

重要インフラへのサイバー攻撃が企業にも無関係ではない理由

国家間の対立が激しくなると、最も気をつけたいのは重要インフラ分野への波及です。

水道、電力、エネルギー、交通、物流、金融などは、社会的な影響が大きい一方で、古い設備や複雑な委託構造を抱えていることが少なくありません。

特に問題になりやすいのは次のような状態です。

  • 外部公開された遠隔アクセス
  • 古い認証方式や弱いパスワード
  • 長く更新されていない機器
  • ITとOTの境界が曖昧な構成
  • ベンダー任せで実態が見えない運用

こうした環境では、非常に高度な攻撃でなくても大きな影響が出ることがあります。
実際、重大事故の引き金は、ゼロデイよりも、公開された入口・使い回し認証・未更新機器であることが少なくありません。

これは日本企業にとっても他人事ではありません。
製造、物流、医療、エネルギー、交通に関わる企業だけでなく、それらの委託先や関連事業者も連鎖的に標的になり得ます。

サイバー戦と電子戦は、すでに一体で動き始めている

今回の情勢で見えてきたもう一つの特徴が、サイバー攻撃と電子戦の境界が薄れていることです。

湾岸地域では、GPSの混乱や海上追跡への妨害が報告されており、電波妨害、スプーフィング、通信障害といった手法が組み合わされている可能性があります。

以前なら、

  • サイバー攻撃
  • 情報戦
  • 電子戦

は別々に語られることが多かったはずです。
ただ、今はこの三つが連携して使われるのが普通になりつつあります。

相手の情報を乱し、通信を不安定にし、心理的圧力をかけながら、必要なら物理攻撃も重ねる。
この複合化が、今の紛争の怖さです。

企業でも、攻撃を単一カテゴリで捉えすぎると実態を見誤ります。
「DDoSだから可用性の問題」「情報漏えいだから機密性の問題」と切り分けすぎると、実際の被害の連鎖を見落とします。

企業の情シス担当者が今見るべきポイント

こうした国際情勢を受けて、企業側が現実的に見直したいのは、壮大な国家戦略ではありません。
もっと手前の、いつも後回しになりやすい部分です。

外部公開資産の棚卸し

まず確認したいのは、自社がインターネット上に何を公開しているかです。

  • VPN
  • リモートアクセス装置
  • 公開Webサーバー
  • 管理画面
  • 委託先接続経路
  • 利用中のSaaS連携

「把握しているつもり」と「継続的に見えている」は別物です。

認証とアクセス経路の見直し

攻撃が増える局面では、入口の甘さが真っ先に突かれます。

  • MFAの適用状況
  • 退職者・休眠アカウント
  • 共有アカウントの有無
  • ベンダー保守用IDの扱い
  • 過剰権限の放置

このあたりは、派手ではありませんが効果が大きい見直しポイントです。

重要システムの依存関係の確認

本当に止めたくない業務が何に依存しているか、説明できる状態にしておくことも重要です。

  • どの回線が止まると困るのか
  • どのSaaSが落ちると業務が止まるのか
  • OTや製造系に影響する接続点はどこか
  • 委託先側の障害がどこまで波及するか

有事では、技術より先に可視化不足が痛手になります。

「遠い戦争の話」で終わらせないために

今回のイラン情勢から見えてくるのは、サイバー攻撃がすでに軍事行動の周辺ではなく、中心的な構成要素になっていることです。

特に重要なのは次の3点です。

  • サイバー攻撃は先制手段になっている
    物理攻撃の前から、通信、情報、公開システム、社会心理に対する操作が始まる時代です。
  • 情報プラットフォームそのものが標的になる
    アプリ、報道サイト、SNS、配信基盤など、ユーザーが信頼している情報経路が狙われます。
  • 国家は代理グループを使って攻撃範囲を広げる
    国内の部隊だけでなく、国外の協力者やハクティビストを通じて、低コストかつ継続的に圧力をかけられる構図ができています。

この流れを見ると、サイバー空間は完全に“主戦場の一つ”です。
そして企業にとって本当に重要なのは、国際ニュースを追うことそのものではなく、そのニュースが自社のどの弱点を照らしているかを見ることだと思います。

大きな衝突のあとには、目立つ攻撃だけでなく、その陰で便乗的な攻撃や模倣犯的な動きも増えがちです。
現場で身構えるべきなのは、むしろそこです。

派手なインシデントが起きてから慌てるより、公開資産、認証、外部接続、委託先経路を静かに見直しておく。
結局のところ、その積み重ねが一番有効です。


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