
サイバー攻撃というと、マルウェア、フィッシングメール、不審なURLなどを思い浮かべる方が多いと思います。
ただ、攻撃の入口は画面の中だけにあるとは限りません。
机の上に置いてあるUSBケーブルが、見た目も充電機能も普通のケーブルとほとんど変わらない。それでも内部には別の機能が組み込まれていて、接続した端末に対して意図しない操作を行える。
それを実際のRed Team向けツールとして形にしたものの一つが、O.MG Cableです。
O.MG Cableは、正規のペネトレーションテストやセキュリティ教育で、悪意あるUSBデバイスを使った攻撃シナリオを再現するために提供されています。現在の製品では、通常のUSBケーブルとして動作しながら、モデルによってキーストローク入力、Wi-Fi経由の制御、ハードウェアキーロギングなどの機能を備えています。
厄介なのは、「怪しいUSBメモリ」ではなく、普段何気なく使っているケーブルそのものが信頼できない可能性があることです。
TABLE OF CONTENTS
- 1. O.MG Cableとは何か
- 2. 見た目が普通だからこそ厄介
- 3. O.MG Cableはどのように端末へ影響を与えるのか
- 4. Wi-Fi経由で離れた場所から制御できる
- 5. O.MG Cableの主な機能とBasic・Eliteの違い
- 6. キーストローク入力が企業環境で怖い理由
- 7. キーロギングが可能なモデルもある
- 8. 「アンチウイルスが入っているから大丈夫」ではない
- 9. 悪用されるとしたら、どんな場面が考えられるか
- 10. 「見た目で見分ける」は対策として弱い
- 11. USBデータブロッカーなら安全なのか
- 12. 企業で有効なO.MG Cable対策
- 13. Red TeamでO.MG Cableを使う意味
- 14. 危険なのは「USBケーブル」ではなく、無条件の信頼
O.MG Cableとは何か

O.MG Cableは、内部に小型のインプラントを組み込んだUSBケーブルです。
外見上は一般的な充電・データ通信用ケーブルに近く、内部機能が動作していない間は通常のUSB 2.0ケーブルとして充電やデータ通信を行える仕様になっています。Red Teamが高度な攻撃シナリオを模擬し、防御側の検知能力を確認するためのツールとして利用できます。
つまり、O.MG Cableそのものが「犯罪専用の道具」というわけではありません。
使い方としては、ペネトレーションテストやRed Team演習で、
- 不審なUSBデバイスを組織が検知できるか
- 社員が未知のケーブルを接続してしまうか
- USB経由の入力デバイスをどこまで制御できているか
- エンドポイント製品が異常な振る舞いを検出できるか
- 物理的なセキュリティルールが機能しているか
といった点を確認できます。
ただし、同じ仕組みが悪意ある人物に使われれば、当然リスクになります。
見た目が普通だからこそ厄介
USBメモリなら、「知らないUSBメモリを会社のPCに挿してはいけない」という教育はかなり浸透しています。
一方で、充電ケーブルはどうでしょうか。
会議室に置いてあるケーブル。
同僚から借りたケーブル。
出張先のデスクに置かれているケーブル。
イベント会場でもらったケーブル。
USBメモリほど警戒せず、そのまま接続してしまう方は少なくないと思います。
O.MG Cableの怖さは、この「ケーブルなら大丈夫だろう」という信頼を利用できる点にあります。
しかも、充電や通常のデータ通信ができれば、利用者から見ても「ちゃんと動くケーブル」です。故障しているわけでも、露骨な警告が出るわけでもありません。
ハードウェア攻撃では、「正常に動作すること」が安全性の証明にならないケースがあります。
O.MG Cableはどのように端末へ影響を与えるのか

O.MG Cableの代表的な機能の一つがKeystroke Injectionです。
仕組みを大まかに言えば、接続された端末からキーボードなどの入力デバイスとして認識され、事前に設定された入力を高速に送るというものです。BasicとEliteの両モデルでキーストローク入力に対応しています。
ここで重要なのは、マルウェアファイルをUSBストレージからコピーする攻撃とは性質が違うことです。
PC側から見ると「人がキーボードを操作した」のに近い入力として扱われるため、単純にUSBメモリの読み書きを禁止するだけでは十分でない場合があります。
ただし、ケーブルを挿しただけで、どんなPCでも必ず侵害できるわけではありません。
実際に何が可能かは、
- OS
- 端末のロック状態
- USBデバイス制御
- 実行権限
- アプリケーション制御
- EDR
- ネットワーク制御
などによって変わります。
「挿した瞬間にすべてを乗っ取れる魔法のケーブル」と考えるより、通常のUSB周辺機器を装い、端末側の信頼や設定の隙を突く攻撃デバイスと考える方が正確です。
Wi-Fi経由で離れた場所から制御できる
O.MG Cableには、Webブラウザから操作できるWi-Fi制御機能もあります。
そのため、ケーブルを接続した後、操作する人が常に対象端末のすぐ横にいる必要はありません。Eliteモデルでは、拡張されたWi-Fi機能や暗号化されたネットワーク経由の制御機能も用意されています。
これは、一般的なUSBメモリを起点とする攻撃とは少し異なる特徴です。
USBメモリによる攻撃では、ファイルを開かせたり、ユーザーに何らかの操作をさせたりするシナリオがよく想定されます。一方、O.MG Cableのようなデバイスでは、接続された後も攻撃デバイスとして機能し続ける可能性があるため、単なる初期感染媒体としてだけ見るとリスクを小さく見積もってしまいます。
O.MG Cableの主な機能とBasic・Eliteの違い
2026年8月時点で、O.MG CableにはBasic(Gen 1)とElite(Gen 3)があり、利用できる機能には違いがあります。
| 機能 | Basic | Elite |
|---|---|---|
| キーストローク入力 | ○ | ○ |
| マウス入力 | ○ | ○ |
| Wi-Fiトリガー | ○ | ○ |
| Geo-Fencing | ○ | ○ |
| Self-Destruct | ○ | ○ |
| ハードウェアキーロガー | — | ○ |
| HIDX StealthLink | — | ○ |
| 暗号化されたNetwork C2 | — | ○ |
| 拡張Wi-Fi機能 | — | ○ |
ここで注意したいのが、すべてのO.MG Cableがキーロガーになるわけではないことです。
FullSpeed USB Hardware KeyloggerはEliteモデル向けの機能で、対応する着脱式USBキーボードからの入力を記録する仕組みです。
「O.MG Cableを挿せば、どんな端末でもすべてのキー入力を盗める」と説明するのは正確ではありません。
キーストローク入力が企業環境で怖い理由
企業側から見ると特に気になるのは、USBデバイスが「キーボード」として振る舞えることです。
私たちは普段、キーボードを接続するとき、
「このキーボードを信頼してよいですか?」
と毎回セキュリティ確認をするわけではありません。
業務端末ではキーボードやマウスは日常的に使うため、HID(Human Interface Device)を完全に禁止するのは現実的ではない環境もあります。
この信頼を利用できるのが、Keystroke Injection型のデバイスです。
端末側で許可された範囲の操作しかできないとしても、利用者が意図していない入力を自動で行わせられること自体が問題です。
USBセキュリティ=USBストレージ禁止、ではありません。
入力デバイスまで含めて考える必要があります。
キーロギングが可能なモデルもある
Eliteモデルには、対応するUSBキーボードとの組み合わせでハードウェアキーロギングを行う機能があります。
現在の仕様では、対象となるFullSpeed USBキーボードの入力を受動的に記録し、最大約65万キーストロークを保存できるとされています。
これはマルウェア型のキーロガーとは少し違います。
OS上に「キーロガー.exe」のようなプログラムをインストールするのではなく、USB通信の経路に存在するハードウェア側で入力を取得するためです。
そのため、セキュリティ対策を端末内のファイルやプロセスだけに限定していると、ハードウェア由来のリスクを十分に把握できません。
「アンチウイルスが入っているから大丈夫」ではない
O.MG Cableが分かりやすく示しているのは、アンチウイルスが守る領域と、物理デバイスの信頼は別問題だということです。
もちろん、EDRやOSの制御機能によって、その後に行われる不審なプロセス実行や通信を検出・阻止できる可能性はあります。
しかし、
「知らないケーブルを接続する」
という最初の行動そのものを、一般的なアンチウイルスがすべて防いでくれるわけではありません。
ソフトウェア対策だけでなく、
- 物理セキュリティ
- USBデバイス制御
- 最小権限
- EDR
- ネットワーク監視
- 社員教育
を組み合わせる必要があります。
悪用されるとしたら、どんな場面が考えられるか
具体的な攻撃手順を知らなくても、企業が想定しておくべきシナリオはいくつかあります。
オフィス内のケーブルを交換される
誰でも出入りできる会議室や共有スペースにあるUSBケーブルが、別のものへ交換されるケースです。
利用者側は「いつもの備品」だと思って使うため、持ち込まれたUSBメモリより警戒されにくくなります。
イベントや出張先で知らないケーブルを使う
空港、ホテル、展示会、コワーキングスペースなど、自社管理外の環境ではケーブルの出所を確認しづらくなります。
利便性を優先して、その場にあるものを使ってしまうことがあります。
内部不正に利用される
悪意ある内部関係者が、正規の備品に見えるケーブルを設置するケースも考えられます。
外部からの攻撃だけを想定している企業では、こうした「社内に置かれたものへの信頼」が盲点になりやすいです。
「見た目で見分ける」は対策として弱い
O.MG Cableのようなデバイスへの対策として、
「怪しいケーブルを使わない」
という話がよく出ます。
もちろん大切ですが、それだけでは十分ではありません。
問題は、見た目が怪しくないことだからです。
通常環境に溶け込む外見を持ち、一般的なUSBケーブルとして充電やデータ通信もできるため、外観や基本動作だけで安全性を判断するのは難しい場合があります。
社員一人ひとりの観察力だけに頼るより、
「会社で使用してよいケーブルを決める」
というルールの方が現実的です。
USBデータブロッカーなら安全なのか
外出先でのUSB充電対策として、USBデータブロッカーが使われることがあります。
信頼できる製品で、物理的にデータ通信を遮断して電源だけを通す構造になっていれば、データ線を利用するUSB攻撃への対策として有効な場合があります。
ただし、ここにも注意点があります。
O.MGの製品群には、「データをブロックする機器」の外見をしながら独自の入力機能を持つO.MG UnBlockerという製品も存在します。
つまり、
知らないケーブルに、知らないデータブロッカーを付ければ安全
という話ではありません。
使うのであれば、ケーブルだけでなくデータブロッカーや充電アダプターも、自社または自分で管理している信頼できる製品を使う必要があります。
企業で有効なO.MG Cable対策
自社管理外のUSBケーブルを業務端末で使わない
最も分かりやすい対策です。
社員へ支給したケーブルを使用し、会議室や出張先でも出所不明のケーブルを業務PCへ接続しないルールにします。
「USBメモリだけ禁止」ではなく、ケーブル、アダプター、ドッキングステーションなども対象に含めた方がよいでしょう。
共有スペースのケーブルを資産として管理する
会議室の充電ケーブルやUSBハブは、消耗品扱いで放置されがちです。
しかし、物理的に差し替えられる可能性を考えるなら、
- 誰が設置したものか
- 交換履歴
- 型番
- 管理責任者
まで分かる状態にしておくと安心です。
重要拠点では、定期的な現物確認も検討できます。
USBデバイスを端末側で制御する
Windowsでは、デバイスの種類やハードウェアIDなどを使って、特定の周辺機器のインストールを許可・禁止する仕組みがあります。Microsoft Defender for EndpointやIntuneでは、USBを含む周辺機器について、Device Controlやデバイスのインストール制限を企業ポリシーとして管理できます。
ただし、Removable Media Device Controlだけで、すべてのHID型USB攻撃を一律に防げるわけではありません。キーボードなどのデバイスクラスも含め、どの周辺機器を許可するかはOS側のデバイスインストール制限なども組み合わせて設計する必要があります。
ローカル管理者権限を必要以上に与えない
意図しない入力が発生しても、そのユーザー権限で実行できる範囲が限定されていれば、被害を抑えられる可能性があります。
「USB攻撃を100%防ぐ」だけでなく、侵入された後に何ができるかを小さくする考え方も重要です。
EDRで不審な挙動を監視する
USBデバイス自体を見逃したとしても、その後に不自然なプロセス起動、コマンド実行、外部通信などが発生すれば、エンドポイント側で検知できる可能性があります。
物理対策だけ、EDRだけ、と一つに依存しないことが重要です。
社員教育では「USBメモリ」だけを例にしない
セキュリティ研修で、
「知らないUSBメモリを挿さないでください」
と伝えるだけでは足りません。
- USBケーブル
- 充電アダプター
- USBハブ
- 変換アダプター
- ドッキングステーション
なども、PCへ接続する以上は信頼境界の一部です。
「データを保存していない機器だから安全」と考えないよう伝える必要があります。
Red TeamでO.MG Cableを使う意味
ここまで危険性を中心に書きましたが、O.MG Cableの本来の価値は、防御側が普段見落としている攻撃経路を実際に確認できることにあります。
Red Team演習では、高度な攻撃シナリオを模擬し、防御チームが新しい検知機会を確認するためのツールとして活用できます。
たとえば演習で確認したいのは、
「社員がケーブルを使ってしまったか」
だけではありません。
接続された後、
- USBデバイスを検知できたか
- EDRに異常が出たか
- SOCが気づいたか
- 不審な通信を検出できたか
- 権限によって被害を限定できたか
- インシデントとして適切にエスカレーションできたか
まで確認できます。
これは通常の脆弱性スキャンだけでは分かりません。
攻撃者が現実に使える経路をつないだとき、防御がどこで機能するのかを見る必要があります。
危険なのは「USBケーブル」ではなく、無条件の信頼

O.MG Cableを見ると、
「USBケーブルまで疑わないといけないのか」
と思うかもしれません。
実際、すべてのケーブルを疑いながら仕事をするのは現実的ではありません。
必要なのは、何でも疑うことではなく、何を信頼してよいのかを企業側で決めることです。
自社が支給したケーブル。
管理されたUSBデバイス。
許可された周辺機器。
必要最小限のユーザー権限。
異常を検知するEDR。
こうした仕組みがあれば、社員個人に「見た目で悪意あるケーブルを見抜いてください」と無理な判断を任せる必要はありません。
O.MG Cableが教えてくれるのは、サイバー攻撃が必ずしもソフトウェアから始まるわけではないということです。
メールやWebサイトだけを守っていても、端末のUSBポートから信頼していないデバイスを自由に受け入れていれば、そこが別の入口になる可能性があります。
PCにつなぐものは、それ自体がセキュリティ境界の一部です。
身近すぎて見落としやすい場所だからこそ、一度、自社で使っているUSB機器やケーブルの管理方法まで確認してみる価値があります。
投稿者プロフィール

- イシャン ニム
-
Offensive Security Engineer
15年以上の実績を持つ国際的なホワイトハッカーで、日本を拠点に活動しています。「レッドチーム」分野に精通し、脆弱性診断や模擬攻撃の設計を多数手がけてきました。現在はCyberCrewの主要メンバーとして、サイバー攻撃の対応やセキュリティ教育を通じ、企業の安全なIT環境構築を支援しています。
主な保有資格:
● Certified Red Team Specialist(CyberWarFare Labs / EC-Council)
● CEH Master(EC-Council)
● OffSec Penetration Tester(Offensive Security)







