
The Hacker Newsは2026年7月13日、AI生成とみられるPowerShellを用いたActive Directoryへの情報収集攻撃を報じました。本記事では、同報道および調査元のHuntress・Sygnia両社による一次レポートに基づき、攻撃の手口と推奨対策をまとめます。攻撃者はユーザーやコンピューター、グループ、信頼関係などを調査し、ネットワーク共有の探索やデータの圧縮、外部への持ち出しまで進めたとされています。
The Hacker News:Attacker Uses Suspected AI-Generated PowerShell Script to Map Active Directory
この記事のポイント
影響のあるシステム
- Active Directoryドメインに参加しているWindows Server
- Active Directoryのドメインコントローラー
- Active Directoryで管理されているユーザー、コンピューター、グループ、組織単位、サブネット、信頼関係
- Remote Desktop Protocol(RDP)によるリモート接続を許可しているサーバー
- VPNを通じて社内環境へ接続できるシステム
- ユーザーがアクセス可能なWindowsネットワーク共有
- PowerShellを実行できるWindows環境
- Amazon S3へのファイル操作が可能な環境
- AWSのIAMユーザー、アクセスキー、S3、ECS、SQS、ネットワークACL
- ソースコードリポジトリ、CI/CDパイプライン、クラウド上のアプリケーションおよびデータストア
特定のWindows製品の脆弱性を悪用した事例ではなく、侵害済みの認証情報と正規機能、正規ツールを組み合わせた攻撃です。そのため、製品の種類だけでなく、リモートアクセスと認証情報の管理状況を確認する必要があります。
推奨される対策
- 外部から接続可能なRDPやVPNを洗い出し、接続元IPアドレスや利用者を制限する
- VPN、RDP、管理者アカウントなどの外部アクセス経路に多要素認証を適用する
- 侵害が疑われるアカウントのパスワードを変更し、既存のセッションや認証トークンを失効させる
- 管理者権限やActive Directoryの特権グループに不要なアカウントが登録されていないか確認する
- PowerShellのスクリプトブロックログを有効化し、Event ID 4104を集中監視する
C:\ProgramData\などに作成された不審なPowerShellスクリプト、実行ファイル、CSV、ZIP、HTMLファイルを確認する- 短時間に大量のユーザー、コンピューター、グループ、信頼関係が照会される挙動を監視する
s5cmd.exeやSharpShares.exeが承認されていない端末で実行されていないか確認する- サーバーやクラウド環境からの外部通信を必要な宛先のみに制限する
- ファイルのハッシュだけでなく、列挙、圧縮、共有探索、外部送信などの一連の挙動を検知する
AIによってスクリプトの外見が変化しても、Active Directoryへの大量照会やデータの圧縮、外部送信といった攻撃行動そのものは残ります。既知ファイルの検知だけに依存せず、操作の連続性を監視することが重要です。
※上記の対策は、報道された攻撃手法の特性に基づき、日本の企業向けに独自に推奨する防衛措置です。
この記事に出てくる専門用語
- Active Directory(AD):企業内のユーザー、コンピューター、アクセス権限などを一元管理するMicrosoftの仕組みです。侵害されると、社内の多くのシステムへ影響が広がる可能性があります。
- ドメインコントローラー(DC):Active Directoryの認証や管理情報を保持する重要なサーバーです。ユーザーが正しいパスワードを使用しているかの確認などを行います。
- AD列挙:Active Directoryに登録されたユーザー、端末、グループ、権限、信頼関係などを調査する行為です。管理目的でも使用されますが、攻撃者は次に狙う対象を特定するために悪用します。
- PowerShell:Windowsの設定変更や管理作業を自動化するための機能です。正規の管理ツールですが、攻撃用スクリプトの実行にも悪用されることがあります。
- RDP:Remote Desktop Protocolの略称で、離れた場所からWindows端末やサーバーを操作するための通信方式です。
- バイブコーディング:自然言語でAIへ指示を繰り返し、目的のプログラムを生成させる開発方法です。高度なプログラミング知識がない攻撃者でも、専用スクリプトを作成できる可能性があります。
- LLM:Large Language Modelの略称で、人間の指示を理解し、文章やプログラムコードなどを生成する大規模言語モデルです。
- s5cmd:Amazon S3上のファイルを高速かつ大量に操作するための正規ツールです。本件では、データ持ち出しに使用された可能性が報告されています。
- SharpShares:ネットワーク内に存在する共有フォルダーを調査するC#ベースのツールです。攻撃者はアクセス可能なデータ保管場所を探す目的で使用したとされています。
- 挙動ベース検知:特定のファイル名やハッシュだけではなく、大量の情報照会、ファイル圧縮、外部通信など、システム上で発生した行動を組み合わせて攻撃を検知する考え方です。
盗まれた認証情報を使いWindows Serverへ侵入

Huntressが調査したインシデントは、2026年6月3日に確認されたとされています。攻撃者は、すでに侵害されていた認証情報を使用し、Active Directoryドメインに参加しているWindows ServerへRDPで接続しました。調査時の状況からは、VPNが最初の侵入経路だった可能性も示されていますが、具体的にどのような方法で認証情報が窃取されたのかは明らかにされていません。
サーバーへ接続した攻撃者は、Windows上の対話型コマンドを使用し、C:\ProgramData\フォルダーへツールを配置しました。このフォルダーには正規のアプリケーションがデータを保存することもありますが、今回の事例では、攻撃用のPowerShellスクリプトや実行ファイルを一時的に保管する場所として使用されています。
注目すべき点は、未知の脆弱性や高度なマルウェアによって最初の侵入が行われたわけではないことです。攻撃者は有効な認証情報を使って通常のリモート接続を行い、その後にWindowsの正規機能を利用して活動を拡大しました。正規の利用者と似た経路を通るため、ログインの成否だけでは侵入を見分けにくく、接続元、利用時間、操作対象、実行されたコマンドなどを組み合わせた確認が必要になります。
出典:Huntress「Analyzing AI-Augmented Network Enumeration」
AI生成とみられるPowerShellがActive Directoryを調査
RDP接続を確立してから数分以内に、攻撃者はC:\ProgramData\Untitled1.ps1というPowerShellスクリプトを配置し、Active Directory環境の調査を開始しました。スクリプトには「100% Working AD Information Gathering Script – FULLY FIXED」というタイトルが付けられており、Huntressは、攻撃者がLLMとのやり取りを繰り返しながら修正した可能性を示す特徴と評価しています。
このスクリプトは、まずドメインと主要なドメインコントローラーを特定します。DNS、nltest、Active Directoryモジュール、環境変数、固定値という複数の方法を順番に試す、5段階のフォールバック処理が実装されていました。通常であれば適切な方法を絞って実装するところ、失敗を避けるために考えられる手段を過剰に盛り込んでいる点が、AI生成を示唆する特徴の一つとされています。
ドメインコントローラーを特定した後は、Active Directoryに登録されているユーザー、コンピューター、グループ、組織単位、サブネット、ドメイン間の信頼関係などを体系的に収集しました。処理には類似した例外処理が繰り返し使用され、コンソール出力もシアン、緑、赤、黄で装飾されていました。さらに、AIが生成したテンプレートのプレースホルダーとみられる値が修正されないまま残されていたことも確認されています。
ただし、コードにAI生成らしい特徴が存在することと、攻撃能力が低いことは同義ではありません。完成したスクリプトはActive Directory全体の構造を短時間で把握できる機能を備えており、次の攻撃対象やアクセス可能な情報を選定するために十分な情報を攻撃者へ提供した可能性があります。
出典:Huntress「Analyzing AI-Augmented Network Enumeration」
収集結果を自動整理し、共有データの探索と持ち出しへ
スクリプトが収集したActive Directory情報は、日時を含む専用フォルダーに保存されました。Huntressによると、作成されたファイルには、ユーザー、コンピューター、グループ、組織単位、サブネット、信頼関係、メールアドレスを持つユーザーなどをまとめた複数のCSVファイルが含まれていました。さらに、収集結果を一覧化したAD_Report.htmlが生成され、最後にフォルダー全体がZIPファイルへ圧縮されています。
攻撃者にとって必須とは考えにくいHTML形式のレポートまで自動生成していたことについて、Huntressは、LLMが補助的な機能として追加し、攻撃者がそのまま採用した可能性があると分析しています。AIが単に攻撃コードを生成するだけでなく、結果の整理や成功状況の可視化まで自動化していた点が特徴です。
約30分後には、Amazon S3上のファイルを高速に操作する正規ツールs5cmdが配置されました。続いて、ネットワーク共有を列挙するSharpSharesも使用され、一般的な管理共有を除外しながら、侵害したユーザーがアクセスできるデータ保管場所を探索したとされています。
最終的に、収集されたデータはCSVとして保存、圧縮された後、外部サーバーへ持ち出されたと報告されています。この流れは、Active Directoryの調査が単なる環境確認ではなく、価値のあるデータを効率的に探し出し、持ち出すための準備段階だったことを示しています。正規ツールが利用される場合もあるため、ツール名だけではなく、実行した利用者、端末、時間帯、転送先を確認する必要があります。
出典:Huntress「Analyzing AI-Augmented Network Enumeration」
AIが生み出したのは新しい攻撃手法ではなく実行速度

今回使用されたPowerShellスクリプトの機能は、Active Directoryの列挙やファイル共有の探索など、以前から攻撃で使用されてきたものです。AIが未知の攻撃技術を生み出したというよりも、攻撃者が目的に合わせた専用ツールを短時間で準備し、侵入後の調査やデータ収集を高速化した点が重要です。
The Hacker Newsは関連事例として、Sygniaが調査したAWS環境への攻撃も紹介しています。この事例では、攻撃者が最初のアクセスから約72時間で、アプリケーション、AWSリソース、ソースコードリポジトリ、CI/CD、実行環境、データストアへ侵害を拡大したとされています。ゼロデイ脆弱性や新種のマルウェアではなく、認証情報の探索、権限確認、クラウド環境の列挙、アクセスキーの作成、データ持ち出しなど、既知の手法が連続して使用されました。
攻撃者は、新しいアクセスキーを取得するたびに、そのキーで操作できるリソースや権限を調べ、次の攻撃経路を選択していたと報告されています。Sygniaの調査では、同じ送信元から1秒間に4つの異なるアカウントのアクセスキーが使用された状況も確認されており、人間による手作業だけでは説明しにくい並列処理だったと分析されています。
さらに、S3バケットへのアクセス拒否、ECSサービスやコンテナの最大容量をゼロにする操作、ネットワークACLによる通信遮断、SQSキューの削除なども行われました。これらは被害者に対してクラウド環境を停止させる能力を示し、金銭的な要求を有利に進めるための圧力として使用された可能性があります。
AIの影響は、個々の攻撃手法の新規性よりも、複数の認証情報やシステムを同時に分析し、攻撃を繰り返す速度に表れています。従来の対応手順を前提に調査を進めている間にも、攻撃者が別の認証情報や経路を使って侵害範囲を広げる可能性があるため、企業には早期の封じ込め判断が求められます。
出典:Sygnia「Inside an AI-Assisted Cloud Attack: Familiar Techniques at Unfamiliar Speed」
日本企業に求められる挙動監視と迅速な封じ込め
AIで生成されたスクリプトは、一度限りの構成やファイル名を持つ可能性があります。そのため、既知のマルウェアと同じハッシュや文字列を探す方式だけでは、検知できない場合があります。Huntressは、AIがコードの書き方を変えることはできても、Active Directoryへの照会やOS上でのファイル作成、コマンド実行といった基本的な攻撃行動までは隠しにくいと指摘しています。
今回の調査では、Microsoft-Windows-PowerShell/OperationalログのEvent ID 4104に記録されたスクリプトブロックが、攻撃スクリプトの復元と分析に利用されました。企業はPowerShellの詳細ログを取得し、短時間に大量のActive Directoryオブジェクトが照会された場合や、通常使用されない端末から管理コマンドが実行された場合に、警告を発生させる仕組みを検討する必要があります。
また、侵害が確認された場合は、すべての調査が完了するまで待ってから対応を始めるのではなく、調査と封じ込めを並行して進めることが重要です。Sygniaは、侵害されたアカウントの無効化、セッションやトークンの失効、パスワードやアクセスキーの変更、外部通信の制限、VPN接続の停止、ネットワーク分離などを、初期段階で検討すべき対策として挙げています。
特に、Active Directoryの管理者アカウントやクラウドのアクセスキーが侵害された場合、攻撃者は取得した権限をAIで素早く分析し、新しい攻撃経路を選択する可能性があります。影響が確認された認証情報だけでなく、同じサーバーやリポジトリに保存されていた可能性があるパスワード、APIキー、トークン、証明書なども対象として確認しなければなりません。
AI支援型攻撃への対策として、まったく新しいセキュリティ製品だけを導入すれば解決するわけではありません。多要素認証、最小権限、ログの集中管理、ネットワーク分離、不要な外部公開の停止、迅速なインシデント対応など、従来から推奨されてきた基本対策を確実に実施し、攻撃者より早く異常を把握して封じ込められる体制を整えることが重要です。
出典:Huntress「Analyzing AI-Augmented Network Enumeration」、Sygnia「Inside an AI-Assisted Cloud Attack: Familiar Techniques at Unfamiliar Speed」
参考文献・記事一覧
- The Hacker News:Attacker Uses Suspected AI-Generated PowerShell Script to Map Active Directory
- Huntress:Analyzing AI-Augmented Network Enumeration
- Sygnia:Inside an AI-Assisted Cloud Attack: Familiar Techniques at Unfamiliar Speed
- GitHub:s5cmd
- GitHub:SharpShares
投稿者プロフィール

- CyberCrew(サイバークルー)
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