
IT管理ソフトウェアを提供するConnectWiseは、同社のクラウドバックアップ等のアプリケーションIDが侵害され、顧客のMicrosoft 365テナントへ不正にアクセスされるインシデントが発生したと発表しました。攻撃者はベンダー側に保持されていた資格情報を悪用し、正規アプリの権限を行使して各テナントへの侵入を試みています。セキュリティ企業Huntressの調査では、1,000件近いテナントへのサインイン試行と300件以上の成功が確認されており、バックドア設置の動きも報告されています。
The Hacker News:ConnectWise Suspends Cloud Backup After Attackers Compromise Microsoft 365 Tenants
この記事のポイント
影響のあるシステム
- ConnectWise Cloud Backup(旧SkyKick)
- ConnectWise Cloud Management関連アプリケーション(Exchange Online、MS Teams、SharePoint Online、MS Graph、Partner Center)
- 上記アプリケーションが導入されていた顧客のMicrosoft 365およびMicrosoft Entraテナント
推奨される対策
- 自社および管理対象テナントにおいて、侵害されたConnectWise関連アプリケーションを無効化しステータスを確認する
- 2026年10月13日以降のサインインログを調査し、不審なIPアドレス(144.172.64[.]128)からの接続有無を確認する
- 対処前にログを保全した上で、テナント内の他アプリへの不正な資格情報追加、管理者ロール変更、不審な転送ルール等がないか監査する
この記事に出てくる専門用語
クライアントアサーション(Client Assertion):クラウドサービスやアプリケーションがIDプロバイダーに対して自身を証明するために使用するトークンや資格情報の一種です。本件では顧客テナント内ではなくベンダー側のテナントで管理されていた資格情報が悪用されました。
サービスプリンシパル(Service Principal):Microsoft Entra IDにおいて、アプリケーションが特定のテナント内のリソースへアクセスするために作成されるアイデンティティ(実行主体)です。ユーザーアカウントと同様に権限が付与されます。
ワークロードアイデンティティ(Workload Identity):人ではなくアプリケーションやサービスに割り当てられる認証情報のことです。条件付きアクセスなどの制御を適用することで、不審な場所からのサインインを制限できます。
ベンダー資格情報の悪用とM365テナントへの不正サインイン

ConnectWiseが提供する「Cloud Backup」(旧SkyKick)などの連携機能において、アプリケーションのアイデンティティ(認証情報)が未知の脅威アクターによって不正に取得される事案が発生しました。ConnectWiseは2026年10月14日にこの問題を検知し、外部機関と連携して調査を開始したと説明しています。
セキュリティ企業Huntressの分析によると、攻撃者はベンダー側のテナントに存在していたクライアントアサーションを悪用しました。これにより、個別の顧客のパスワードを盗取することなく、正規アプリケーションに付与された高い権限を偽装してMicrosoft Entra IDからアクセストークンを不正に要求する手口が用いられました。
Huntressの調査では、ホスティング事業者のIPアドレス「144.172.64[.]128」から約1,000のテナントに対してサインイン試行が行われ、そのうち300件以上でサインインが成功したことが確認されています。通常、対象アプリケーションの通信はAzureのプライベートIP空間から行われるため、外部IPアドレスからの接続は明らかな異常挙動でした。ただし、テナント側にサービスプリンシパルが存在しなかった環境では、サインイン自体が成功しても実質的なアクセスには至らなかった事例も報告されています。
標的型攻撃の兆候とバックドア設置による永続化の手口

広範な探索活動に加えて、より特定の組織を狙った攻撃活動も観測されています。Huntressの報告によると、2026年10月15日には政策、安全保障、貿易、重要鉱物分野などの狭い範囲に属する16のテナントを標的とした第2波の試行が確認されました。この試行では、SkyKickアプリによるGraphトークンの要求に続き、Exchange OnlineやTeams、SharePoint、Azure Resource Managerなどを対象とした手動とみられるアクセスが行われました。
さらに重大なリスクとして、侵入したテナント内での永続化活動が確認されています。攻撃者は侵害したConnectWiseアプリの権限を利用し、ある顧客テナント内のHuntressアプリケーションや別のアプリに対して、不正な資格情報を追加しました。この追加作業は、以前のIPアドレスではなくAzureのプライベートIPv6空間から行われていました。
信頼された別アプリケーションにクライアントシークレットを付与することで、仮に最初に侵害されたConnectWiseの資格情報が無効化されても、攻撃者は追加した資格情報を利用してテナントへのアクセスを維持することが可能になります。Huntress側は該当の不正資格情報を速やかに削除し、全アプリに設定ロックを適用するなどの保護措置を講じましたが、テナント内での追加調査の重要性が浮き彫りとなっています。
同じ製品やサービスを利用している組織が確認すべきポイント

ConnectWiseは2026年10月17日、Cloud Backupを含む合計7つのアプリケーションIDを無効化し、関連する証明書を取り消すとともにサービスを一時停止しました。また、既存のバックアップアーカイブは暗号化・隔離されており、侵害された証拠はないと発表しています。しかし、接続の無効化は新規の認証を防ぐのみであり、過去にテナント内で行われた変更を取り消すものではありません。
ConnectWise Cloud BackupやCloud Managementを導入している、または過去に導入していた組織は、以下の確認と対処を実施することが推奨されます。
- 自社および管理対象の全テナントで該当アプリケーションの接続状態を確認し、案内があるまで無効化を維持する
- 2026年10月13日以降のサインインログを保全し、IPアドレス「144.172.64[.]128」や不審なAzureプライベートIPv6からの活動がないか精査する
- テナント内のアプリ登録において、不正なクライアントシークレットや証明書が追加されていないか、新規アプリが作成されていないかを確認する
- グローバル管理者ロールなどの特権昇格、メール転送ルールやトランスポートルールの改変がないかを網羅的に監査する
ベンダーの資格情報が侵害された場合、自社のパスワード運用に問題がなくてもテナント内部が不正操作される危険性があります。該当サービスを利用中の組織は、単にベンダー側の復旧を待つだけでなく、自社のMicrosoft Entra監査ログを詳細に点検し、不正な永続化の兆候が残されていないかを早急に確認してください。
参考文献・記事一覧
- The Hacker News「ConnectWise Suspends Cloud Backup After Attackers Compromise Microsoft 365 Tenants」
- huntress.com「ConnectWise (SkyKick) Vendor Credentials Abused in M365 Attacks | Huntress」
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