
自律的に動作するAIエージェントの普及により、企業のセキュリティ環境は新たな局面を迎えています。従来のファイアウォールやアンチウイルスでは防げない「アイデンティティ(ID)」を狙った攻撃が増加しており、アクセス権限の管理が企業防御の中核となっています。米SailPoint社のレポートによると、AIエージェントの約60%以上が十分なID管理を受けておらず、重大なリスクを抱えているとのことです。 The Hacker News:Identity Security: Your First and Last Line of Defense
この記事のポイント
影響のあるシステム
- AIエージェントや自動化システムを活用する全ての企業
- クラウドサービスおよびID管理システム(IAM)を利用する組織
- 分散型ワークプレースやリモートアクセス環境を持つ企業
推奨される対策
- すべてのAIエージェントおよび非人間IDに対する権限設定と監査の実施
- IAM(Identity and Access Management)やID脅威検知・対応(ITDR)の導入
- AI利用環境におけるアクセス可視化とポリシー運用の強化
- 従業員教育を通じたIDセキュリティ意識の向上
上記の対策は、参考文献・記事で発表されている事実に基づき日本の読者向けに整理したものです。
この記事に出てくる専門用語
- IAM(Identity and Access Management):システムやデータへのアクセスを管理・制御する仕組み。
- AIエージェント:自律的にコードを実行し、業務を処理する人工知能ベースのプログラム。
- ITDR(Identity Threat Detection and Response):ID関連の脅威を検知・対応するセキュリティ技術。
AIがもたらす「常時稼働型リスク」と新たな攻撃面

AIエージェントは疲れず、休まず、疑問を持たずにタスクを実行します。その高い自律性が業務効率を押し上げる一方で、誤ったアクセス権限設定や不十分な監査により「自動化された脆弱性」が生まれています。企業ネットワーク内でAIが直接コードを実行したり、機密データにアクセスするケースが増加しており、人間の承認を経ない操作が、新たな攻撃ベクトルとなっています。SailPoint社の調査によると、AI関連のIDのうち40%未満しかセキュリティポリシーの適用を受けておらず、アクセス権限の見落としが致命的な被害を招くおそれがあります。
IDセキュリティ成熟度の差が生む「セキュリティ格差」

同レポートによると、63%の企業がIDセキュリティ成熟度の初期段階にとどまり、AIや自動化環境に対応できていません。高度なID管理を行う企業は、AIを活用した「Identity Threat Detection and Response(ITDR)」機能を4倍の割合で導入しており、リスク低減とコスト削減の両立を実現しています。 一方、IDを単なる認証管理とみなす企業では、セキュリティ強化の効果が限定的です。特にクラウド化が進む中で、アイデンティティを「戦略的資産」として位置付けないことは、競争力の低下にもつながる可能性があります。
日本企業が今すぐ取り組むべき「ID防御の現実点検」

アイデンティティセキュリティは、もはや「補助的対策」ではなく、企業防御の最前線にあります。AI活用が進む今こそ、自社のID管理体制を再点検する必要があります。まずは、どのシステムやAIがどの権限を持っているか、そしてそれが適切に監視・記録されているかを確認することが重要です。 特に国内企業では、部門ごとのID管理や外部委託システムのアクセス制御にばらつきが見られます。人とAIの両方に対して「最小権限の原則(Least Privilege)」を適用し、継続的に監査することが安全なAI時代を迎える第一歩といえるでしょう。
参考文献・記事一覧
投稿者プロフィール

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